【つくる人】鉛筆画家とつくる、モノクロームに彩られたミニチュアアトリエ
ウッドパズルブランド『つくるんです』をもっと楽しむためのヒントを探す連載「つくる人」。アーティストやクリエイターにつくるんです商品を実際に手に取っていただき、その可能性を一緒に探ります。
つくるんですの楽しさに日頃から向き合うスタッフが
「こんなアレンジができる!」
「つくるんですのこんなところがアツい!」
といった話題で、つくることをナリワイとする方々と素敵な時間を過ごす企画です。
今回の「つくる人」は、鉛筆画家の桜井智さん。鉛筆一本で描き出すモノクロの世界に多くの人が魅了され注目を集めつつある気鋭のアーティストです。ミニチュアハウスのアレンジにチャレンジしていただきました。
主にアレンジを加えたのは額縁です。キットに含まれている絵画を使わず、桜井さんの鉛筆画を随所に飾り付けました。絵画のトーンに合わせて、床面をモノトーンの色紙に変更。家具や本はデフォルトのデザインを生かしましたが、空気感が大きく変わりました!
人の二面性を描き出したモノクローム
▲『阿(阿吽)』(左)、『吽(阿吽)』(右)。繊細に描かれた陰影が生々しさを増幅させ、観る人を引き込みます。
近年は、“二面性”をテーマにした作品を発表しています。それは、相反する感情や物事が、矛盾していながらもひとりの人間の内に共存している様。桜井さんはその現象の美しさに強く惹かれているのだそう。
「例えば著名人の方なら、皆が思っている印象と、実際の印象がまったく異なるものだったりします。どちらも本当のその人であり、両方が備わっているからこそ、ひとりの人間が成立している。いろいろな面を持つ人間を、美しいと思います」(桜井)
2019年から勢力的に活動をスタートさせるとともに、個展、グループ展などへも貪欲に参加している様子。2020年には、Off The Street Gallery(東新宿)や、サナギ(新宿)で個展を開催しました。
▲2020年3月、サナギ(新宿)にて行われた個展の様子。
創作活動はもちろんのこと、個展や出演など多忙なスケジュールを送る中、つくるんですのために時間をつくってくれました!
「(多忙なアーティスト活動で)脳みそ煮詰まってガチガチだからちょうど良かった!」(桜井)
取材を打診した際には、思いやりに満ちた言葉を返してくれて、もう頭が上がりません。
すっかり張り切ったスタッフが、桜井さんとお会いする当日に向けてご用意したのは、ミニチュアハウスシリーズから『スタディ』。
書棚を彩る額縁をアレンジし、桜井さんの作品を嵌め込んで、ミニチュアアトリエをつくりたい!と考えました。作業の工程をお届けします。
ミニチュアハウスをアトリエにアレンジ!
① 床をオリジナルデザインに変更
ミニチュアハウスの魅力は、全てのパーツをオリジナルデザインにアレンジができること。色を変えるだけでも、お部屋の雰囲気がグッと変わります。今回は床の張り紙を変更することにしました。
桜井さんが手掛ける鉛筆画は全てモノクロで描かれています。そのトーンに合うよう、シックなデザインの素材をご用意しました。
▲床のデザインを吟味する桜井さん。
選んだのは、大理石調のプラスチック板。デフォルトの素材のサイズに合わせてカットします。
▲ボールペンで目印をつけてから、カッターナイフで切り取ります。
ハウスに嵌め込み、床面の完成です。
② 家具と小物を配置する
ここからは、事前に途中まで組み立てた小物をハウス内に設置していきます。
▲ミニチュアハウスの小物は全て手作業で組み立てます。「小さいねー!これを組み立てるのは根気が要る!」(桜井)
先程床板をしいたハウス内に、家具を配置していきます。繊細な作業ですが、引越したばかりの新居をレイアウトする時のようなワクワク感を味わえる工程です。
大人の掌よりも小さい家具。ボンドで接着することもできますが、レイアウト変更を楽しめるよう接着しないのもおすすめです。
本も一冊ごとに組み立てます。小指の先ほどの大きさの本もあり、作業には時間がかかりますが、この繊細さがミニチュアハウスの最大の魅力。ディテールまで作り込まれているからこそ、唯一無二の世界観を作り出せるのです。
▲本は模様まで詳細にプリントされています。
▲本棚を埋めていくのも手作業です。これはセンスが問われる作業!?
▲小物の配置にも抜かりない桜井さん。真剣な表情に注目です。「これは独り言が増えそうだねー!」(桜井)
▲本棚のサイドには小棚を接着。ピンセットで慎重に配置します。
▲棚板をつける時、ボンドは薄めにつけるのがコツです。
こうして組み立てること30分。おおよその小物がハウス内に収まりました。
本当に人が住んでいるのではないかと思うくらい、リアリティがあります!
▲家具と小物の配置が8割型完成したところ。
「小物の配置が難しかったです!とても小さいから棚から落ちてしまったり、本棚のサイズと本のサイズが合わなくてハマらなかったり、かなり緻密な造りですね」(桜井)
③ 飾りたい作品をミニチュア化する
今回スタッフがどうしてもやりたかったのは、桜井さんの鉛筆画を縮小してハウス内に飾るというアレンジ。額縁のサイズに合うよう、作品を縮小印刷しました。これを1枚ずつカットし、額縁に貼り付けていきます。
▲40×30mm、25×20mm、20mm×15mmの3サイズで印刷。カットしやすいよう、トンボ線も印刷しておくのがポイントです。
額縁のサイズよりも小さめに印刷すれば、余白を生かした装飾に、額縁いっぱいになるよう大きく印刷すれば、作品のインパクトを強調できます。
「茶色い額縁には、生き物を題材にした作品を嵌め込みたいな。ブラックの額縁は作品のトーンとマッチするから、使いやすいですね」(桜井)
▲実際に額縁をあてがってみる。頭の中で想像するよりも、最終的な完成イメージが湧きやすいかも。
使用する作品が決まったら、カッターナイフで切り分けます。
真っ直ぐに綺麗な切り込みを引いていく様子に「昔から工作が得意だったんですか?」と問うと、意外な答えが返ってきました。
「つくること自体は、そこまで得意だったというわけではないんですよね。特にこういった細かい手作業は、あまりやってきませんでした。保育園の頃に粘土で工作をする授業があったんだけど、周りの子たちが可愛い動物をつくる中、私はひとり、大きな球体を作ったそうなんです。母親が引いたって言ってました(笑)」
少し変わった子だったと振り返る桜井さんですが、幼少期から頭角を表していたのでしょう。そこから鉛筆画という技法に出会い、アーティスト道を邁進するに至った経緯を伺いました。
「14歳くらいかな、家庭環境が複雑だったせいもあって、不良少女だったんですよね。家にも全然帰らず。でもなぜか絵だけは描きたくて。だから学校では目の前のキャンバス(白い机)に真っ黒になるまで鉛筆で絵を描きまくる日々でした。
その時の先生は一切怒る事はせず、ただ絵を消しておいてくれたので、翌日はまたキャンバスが出来上がっている、みたいな状態でした(笑)」(桜井)
▲「細かい作業は苦手で…」といいつつ、順調に作業を進めていく様子。
高校卒業後は横浜美大に入学し、グラフィックデザインを専攻。PCを使う授業がほとんどで、鉛筆に触れることはほとんどなかったといいます。
「卒業を控えて進路を考えるとき、依頼をされてから作品を作り上げるというスタイルに違和感を覚えたんです。本当に作りたいものはなんだろうかと考えた末、ふっと降りてきたのが、私が絵を好きになったきっかけでもある、いわば原点の「鉛筆」で表現した作品だと気がついたんです。卒業制作では花鳥風月に因んだ4枚の絵を描き上げ、賞をいただく事ができました。グラフックデザイン科だったにもかかわらず、鉛筆ですよ?本当に良い先生方に恵まれましたね(笑)」(桜井)
▲お話をしながらも作業は着々と進み、作品のカットが完了!
その後桜井さんは、創作活動に一時終止符を打つ。「本来ならグラフィックデザイナーを多く輩出するような学科だけど、私がやりたいこと、つまり鉛筆で表現することで食べていけるとは思えなかったから」と、当時ご縁のあったモデルの道に進むことを決めた。雑誌、Web、イベント出演などをこなす多忙な日々の中で、再び鉛筆を握るに至ったのは、卒業制作を完成させてから13年後。ある人物との出会いがきっかけでした。
「2019年の春頃でした。とあるダンサーの友人が企画した「自己表現のイベント」があるんだけど、「何か出してみない?」と友人を通して誘いを受けたんです。卒業制作の作品が、押入れに仕舞われたまま日の目を見ることなく終わってしまうのがかわいそうだなと思って、参加させてもらいました」」(桜井)
▲『天を仰ぐ』2019年
イベントへの参加がきっかけで再び鉛筆を取るきっかけを得たといいます。とはいえ、一度終止符を売った画家としての道。13年のブランクを経て再び歩み出すこととなった背景には、どのような心境の変化があったのでしょうか。
「神保町に借りていたアトリエに友人を招いた時のことです。室内に飾っていた『天を仰ぐ』という作品を見た彼女が、それを見て泣いてくれて。その時、誰かの感度を揺さぶることが自分にとっての幸せだと気づいたんです。描き続けようと決心した出来事でした」
自分の作品を誰かに見せることは、どこか気恥ずかしいけれど、勇気を持ってお披露目してみることで、自分自身の気持ちに気づくことができたのだと締め括りました。
④ 額縁パーツを接着&仕上げ
桜井さんのお話、もっと聞きたい!けど一旦我慢して、作業の続きを見ていきましょう。いよいよ、完成が近づいてきました!
付属の額縁パーツにボンドを塗って、先ほどカットした作品に重ねていきます。
▲ボンドはミニチュアハウスに付属していたものを使用しました。
▲額縁の裏には脚をつけることもできます。壁掛け、立て掛けの両方が楽しめる!
額縁の用意を終えたら、最後の仕上げです。額縁や、まだハウス内に配置していない本や花束などの小物で、空間を飾り付けていきましょう。
▲先ほど作った本棚に、設置。落ちないように、裏面はボンドで補強しました。
▲「アーティスト目線でいったら、手元から離れた作品を飾って置く場として、面白いかもしれませんね」(桜井)
⑤ 完成!
作業を開始してから2時間、すべての小物を設置しおえました。桜井さん、お疲れ様でした!
ランプの明かりを灯すと部屋の中に陰影が生まれ、より一層リアリティが増しました。
「すごーい!きれいだねー!」と、完成の喜びを味わっていただけました。良かったー!
▲床のデザインと絵画、2つのアレンジだけで、部屋の格調が上がった感じがする!
▲そこかしこに配置された鉛筆画が強い存在感を放つ。
つくるんですは、“使命”を見つけるきっかけを自ら作るツールになるかも?
ミニチュアになっていても、つい引き込まれてしまうモノトーンの世界。特に人体の一部をモチーフにした作品はインパクトが強いものが多く、“この絵はどういう経緯で描かれたものなのだろう?”と、つい考え込んでしまいます。
「絵画に限らず、写真でもいえることですが、色彩がないことで想像力がはたらきますよね。作品を観た人が、なるべく多くのことを考えられる余地を残しておきたいんです」(桜井)
▲アトリエにて。
さらに桜井さんは、鉛筆という道具にもこだわりがあると語ります。
「13歳の時、初めて鉛筆画を描いたときの感動は今でも覚えています。鉛筆の「黒色」、消すことで生み出される「白色」だけで表現できることに、大きなな喜びを感じました。」(桜井)
桜井さんが鉛筆という画材にこだわるのには、もう一つ理由があります。鉛筆で描かれた絵は、“デッサン”として観られることが多く、“鉛筆画”というジャンルが確立されていません。鉛筆画が歴史のあるアートとして認められるということが、目標の一つなのだとか。
「なんでもデジタルで完結してしまう時代、鉛筆がこの世からなくならないとは限りません。それならば、しっかり歴史に残るジャンルとして、鉛筆画を大成できたらいいなと考えています」(桜井)
▲完成したミニチュアハウスは、アトリエにお持ち帰りくださいました!
最後に、ミニチュアハウスで遊んでみた感想をお話いただきました。
「興味があれば、とっても夢中になれる遊びだと思いました。こだわれば、どこまでもこだわれちゃうから、時間を忘れて取り組んじゃいそうですね。ミニチュアハウスに限らず、作り続けてる間は、時間も何も気にならなくなっちゃう。気付いたら朝になってるとか、お腹が空かないとか、そういう体験をすることがよくあります。でもその感覚ってすごく心地よくて。今はその感覚を味わいながら創作活動を続けられているから、とても幸せです」(桜井)
ミニチュアハウスに向き合う時間と、自身の創作活動に共通する、“つくる楽しさ”を見つけていただけたのかもしれませんね。またミニチュアハウスで遊ぶことがあるとしたら、どんなことをやってみたいか伺いました。
「もしもっとこだわるとしたら、家具の色を変更したり、小物の色を塗り替えたりしたいですね。もっと統一感のある空間を作れそう!今回も、接着材をはみ出さないようにしようとか、より正確にカットしようとか、ついついこだわってしまいました。」
ミニチュアハウスの制作は、地道な作業が続くものの、自分で考えながら試行錯誤して作り上げていく必要があります。飽きることなく続けられる理由は、単純作業の技術や手先の器用さに止まらないクリエイティビティが試されているからなのでしょうか。
「“使命”というと大袈裟かもしれないけれど、誰もがみな、自分に向いているものを見つけることができると思います。それがどのようなものなのかに気付くきっかけを、なるべくつくることが大事。そういう意味で、つくるんですにチャレンジしてみることはいいことだと思います。私はこれまで習い事を散々やったけど、何一つハマらなくて。でも、独学で始めた絵だけにハマったんです。自分できっかけを探して掴みとる人生は、面白いですよね」
つくる人インタビューシリーズ、次回作にもぜひご期待ください!